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東京高等裁判所 昭和57年(う)1010号 判決 1982年11月04日

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人大塚利彦が提出した控訴趣意書に、これに対する答弁は、東京高等検察庁検察官検事濱邦久が提出した答弁書にそれぞれ記載されたとおりであるから、これを引用する。

一  控訴趣意第二点について

論旨は、訴訟手続の法令違反の主張であって、要するに、被告人が所持していた国際運転免許証は形式上も実質上も有効なものであった旨の弁護人の主張に対し、原判決が形式上有効なものであったことを認めたにとどまり実質上有効なものか否かについて判断を示さなかったのは、刑訴法三三五条二項に違反している、というのである。

しかしながら、所論の主張は、原判示第一の各無免許運転罪の犯罪構成要件に該当する事実がない旨の主張であるにとどまり、刑訴法三三五条二項の主張にあたらないばかりか、原判決によると、被告人が原判示の自動車運転をした際には所論の国際運転免許証の有効期間が満了していたと認定しているのであるから、その実質上の有効性は被告人の犯責に影響がないことになり、これに対し敢えて判断を示さなかったことをもって違法、不当ということはできない。論旨は理由がない。

二  控訴趣意第一点について

論旨は、事実誤認、法令適用の誤りの主張であって、要するに、被告人は、原判示第一の各運転の際、フィリピンにおいて取得した有効期限内の国際運転免許証を有していたから、無免許運転罪が成立する由がなく、かりに、その有効期限が切れていたとしても被告人はその事実を知らず有効期限内であると信じていたから、故意がないのに、原判決が有罪と認めたのは事実誤認、法令適用の誤りにあたる、というのである。

そこで、原審記録を調査し当審における事実取調の結果をも参酌して検討すると、原判決が詳細に判示するとおり、かりに所論の国際運転免許証が道路交通法一〇七条の二の国際運転免許証にあたるとしても、その有効期間は一九八一年(昭和五六年)の七月すなわち同年の被告人の誕生月までとなっており、被告人自身そのことを右免許証を取得した際にフィリピン人の仲介者から聞いて知っていたことが証拠上明らかであるから、その有効期間が満了し未だ更新がなされていなかった時期に行われた原判示第一の各自動車運転が無免許運転罪を構成することは明白である。のみならず、関係証拠によると、被告人は、フィリピンに行けば金で自動車運転免許証が手に入ると他から聞かされ、昭和五六年一月一九日から二二日まで同国に渡航して滞在していた間、フィリピン人の仲介で同国の国内運転免許証である職業者運転免許証とこれに基づく所論の国際運転免許証を入手したものであって、被告人の捜査段階における供述によると、その間まったく運転免許のための試験を受けた事実がなく、《証拠省略》によっても、数百メートル自動車を運転して見せたにとどまり、フィリピンの国内運転免許証を取得するに必要な法規及び運転技術に関する試験(同国の法令によると、職業者運転免許証を取得しようとする者は、無試験で交付される六か月間有効の練習用運転許可証の交付を受けてから五か月を経過した後、交通法規、構造、操作に関する筆記試験、交通法規、マナー、構造、操作に関する口頭試験、発進、合図、道路標識、交通信号の遵守、上り・下り坂の運転、交通頻繁な場所での運転、狭路でのバックと縦列駐車に関する実技試験からなる試験を受け、これに合格した後初めて免許証を交付されることとされており、ただすでに非職業者運転免許証を得ている者についてはその免許証を得てから四か月を経過していれば足り、外国人に対しては英語で試験をすることと定められている。非職業者運転免許証についても、練習用運転許可証の交付を受けてから試験を受けうるまでの必要経過期間が一か月とされている点を除き、これとほぼ同様の手続が定められている。)を受けていなかったことが明らかである。そして、道路交通に関する条約二四条一項の運転免許証、すなわち発給権限のある当局又はその権限を与えられた団体から適性を有することを実証した上で発給された運転免許証とは、条約加盟国において運転免許証を取得するのに必要と定めている運転技能その他の適性要件を充たすことを実証した上でその国の権限ある当局又は団体から発給された運転免許証をいうと解されるから、本件のようにフィリピンにおいて必要とされている試験を受けずに同国の職業者運転免許証を取得した後、これに基づいて自動的に発給を受けた同国の国際運転免許証は、右条約二四条一項の運転免許証にはあたらないと認めるのが相当である。論旨は理由がない。

三  控訴趣意第三点について

論旨は、量刑不当の主張であって、要するに、原判示第一の一の無免許運転は約五キロメートルを運転したにすぎず、同第一の三の無免許運転は実母の容態が急変したとの知らせで駆けつけようとした際の五〇〇メートルという短距離のものであった点で酌むべきものがあること、被告人はフィリピンで取得した国際運転免許証を有効なものと信じて行動していたこと、被告人はわが国で運転免許を取得すべく努力中であることなどの事情に照らすと、被告人に対しては罰金刑を選択して処断するのが相当であるのに、原判決が懲役四月の実刑を科したのは量刑重きに失し不当である、というのである。

そこで、原審記録を調査し当審における事実取調の結果をも参酌して検討すると、被告人は、昭和五二年一月二二日、昭和五三年六月一三日、昭和五四年五月四日にいずれも無免許運転罪又はこれを含む罪により罰金刑に処せられ、同年一一月一四日には覚せい剤取締法違反罪により懲役一年に処せられたのに、その刑を終えてまもなく前判示のとおりフィリピンに渡航して不正な手段で国際運転免許証を取得したうえ、自動車運転を重ねるうち、原判示第一の三回の無免許運転罪と原判示第二の通行区分違反罪で検挙されるに至ったものであり、他にも前科五犯があることを併せ考えると、被告人の法無視の態度は顕著というほかなく、所論のうち酌むべき点を十分考慮しても、とうてい被告人に対して罰金刑をもって臨むのは相当でなく、原判決が懲役四月の刑を科したのはやむを得ないと認められる。論旨は理由がない。

よって、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 桑田連平 裁判官 香城敏麿 植村立郎)

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